【介護予防コラム㉓】シニア前から始めるレジスタンストレーニング!

「人生百年時代」という言葉を耳にすることが増えてきました。長い一生を不自由なく過ごしてゆくためにも、シニアと呼ばれる55歳以上になる前の段階から適切なトレーニングを行い、将来的に身体を自由に動かすことができることで、シニア前(一般的に55歳以下)・シニア後の日常生活をより楽しく過ごしていきたいですね。そんな健康な体と関係の深い要素に「持久力」・「柔軟性」・「筋力」の3つが挙げられます。

健康の維持向上には、この3つの要素を高める必要があります。
今回のコラムでは、身体を動かすエンジンとしての役割を担う『筋力』に着目し、これを高めるための方法を考えていきます。
シニア前から予防を考えて、シニア後のより良い日常生活をレジスタンストレーニング(後述)で目指しましょう!

筋力とは?

シニア前になると「筋力が落ちた」と耳にします。筋力が落ちてくると歩くことが億劫になったり、物を持ち上げられなくなったりと日常生活に支障が出ることがあります。そもそも、この「筋力」とは何でしょうか?

ここからは少し専門的な説明になりますが、「筋力」とは筋肉の収縮によって生み出される力のことです。「筋力」は大きく次の3つの要素で構成されます。

・1つ目は「筋肉の生理的断面積」
端的に言うと「筋肉の量」です。

・2つ目は「筋繊維組成(きんせんいそせい)」
筋肉には長時間にわたり力を発揮する筋繊維(赤筋繊維)、瞬発的に力を力を発揮する筋繊維(白筋繊維)があり、白筋繊維が多いほど筋力の発揮レベルは高くなります。

・3つ目は「抑制レベル」
火事場の馬鹿力という言葉がありますが、人間の筋肉は時にとてつもない力を発揮します。しかし、日常的にその力を発揮してしまうと身体が壊れてしまうので、そうならないように抑制が効いているのです。

ここでは1つ目の「筋肉の生理的断面積」、つまり「筋肉の量」が筋力を決定する最大の要因であるということを覚えておきましょう。

加齢とともに低下する筋力

グラフから分かる通り筋肉量は20歳代をピークに、シニア後の60歳になるとピーク時の約60%まで減少し、80歳になる頃には半分近く筋肉量が減少し結果として筋力の低下につながります。筋肉量の減少は、加齢に伴う身体の諸機能の低下もありますが、シニアの方は長年にわたり筋肉に負荷を与えるトレーニングを行っていないことの影響が大きいのではないかと筆者は考えます。シニア前から備えることで筋肉量の減少を遅らせ、筋力の低下を抑えていきたいですね。

筋肉の役割とは?

ここで筋肉の役割、筋肉はなんのために存在するのか考えてみましょう。ここも専門的な説明になりますので、運動内容が気になる方はこちらをご覧ください。
東京大学石井直方教授著の「筋肉の科学」にわかりやすい解説が記載されていますので抜粋して紹介します。

第1 前述した身体を動かす「エンジン」としての役割

人間が活動できるのは、筋肉が動く(収縮により筋力を発揮)からであり、筋肉がないと歩くことさえできません。また、内臓やその他の器官も筋肉が動かしています。自分自身は何もしなくても心臓は拍動し呼吸も自然に行われています。これらは全て筋肉の収縮が原動力になっています。

第2 重力などに対する姿勢の維持

立っているだけでも筋肉は身体の中で力を出し続けています。座っているときも、仰向けになっているときも筋肉は緊張を保ち姿勢を保持しているのです。また、筋肉は各関節の周りを取り囲むことによって、関節が正しく動くようサポートするという役割もあり、広い意味で姿勢の維持につながります。

第3 熱を作る

人間は恒温動物であり、体温は37度ほどに保たれています。しかし気温は通常37度より低く、自分自身でエネルギーを使うことで熱を生み出さなければなりません。この熱を生み出すことにおいて最も貢献しているのが筋肉です。熱が維持されているということは、いつもエネルギーを消費しているということです。そして、そのための燃料として「糖質」や「脂質」が使われています。もし筋肉によるエネルギー消費のレベルが落ちてくると、糖質や脂質が身体に余分に蓄積されるということが起こり、メタボリックシンドロームにはじまる生活習慣病に向かってしまいます。

第4 力学的ストレスから身体を保護する

例えば、お腹を取り巻いている腹筋群や背筋群があるため、お腹の中にある内臓は守られます。自動車でいえば、ボディがしっかりしているから、中の構造が正しく機能できるのです。

筋肉はこのように、身体を動かすだけでなく人間が生きる上で非常に重要な役割を果たしています。加齢とともに、筋肉の量は少なくなり筋力は低下してくることは事実ですが、健康寿命延伸の観点から、筋肉量を維持し筋力の発揮レベルを落とさないようしなければなりません。

では、筋肉量を維持し筋力の発揮レベルを維持するにはどうすれば良いのか?
そのためには日常生活レベル以上の負荷(レジスタンス)を筋肉にかけてトレーニングする必要があります。

レジスタンストレーニングとは?

ここで「レジスタンストレーニング」とは何かを見ていきましょう。一般的に筋力を鍛えるトレーニングというと「ウエイトトレーニング」の呼称が広く認識されています。しかし、以前より「レジスタンストレーニング」と総称する傾向になっています。「レジスタンストレーニング」とは具体的にバーベルやダンベル、マシン、自体重など、さまざまな負荷(抵抗)をかけて筋肉をトレーニングすることの総称です。

鍛えなければならない身体の箇所とは?「抗重力筋」を鍛えよう!

シニア前から始めるレジスタンストレーニングで優先的に鍛えていきたい身体の部位はどこなのでしょうか。

重力に対して立位や座位などの姿勢を保持する上図のような抗重力筋です。抗重力筋は、日常生活で常に働いている部位ですがこの筋肉がシニアになり衰えてしまうと、重力に対して正しく姿勢を保持することが難しくなります。そのためシニアの方の姿勢保持に非常に重要な部位と言えます。イラストの筋肉群は優先してレジスタンストレーニングで鍛える必要があります。

抗重力筋を鍛えるレジスタンストレーニング

抗重力筋にアプローチする優先度の高いレジスタンストレーニングの種目を解説します。こちらで紹介するレジスタンストレーニングは10回〜15回の反復を1セットとし、2〜3セットを目安に行ってみてください。

脚部のレジスタンストレーニング スクワット

スクワットは「キング・オブ・トレーニング」と呼ばれるほど大切な運動です。股関節を屈曲させるだけの単純なレジスタンストレーニングですが、下半身の大半の筋肉と姿勢を維持するための腹筋群にも作用し、全身の筋肉の約60%を使用する、シニア前に始めるレジスタンストレーニングとして大事な種目となります。

胸部のレジスタンストレーニング 腕立て伏せ

腕立て伏せは上半身(胸部、上腕、肩の筋肉群)の筋力を高めるために重要なレジスタンストレーニングです。

身体の背面部のレジスタンストレーニング デッドリフト

身体の背面の筋肉群(脊柱起立筋群など)は、直立姿勢を維持し腰痛を予防したり下肢が生み出す筋力を上体に伝達するシニアにおいて重要な筋肉群です。デッドリフトはこの身体の背面の筋肉群の力を高めるレジスタンストレーニングになります。

レジスタンストレーニングをより効果的に行うためのちょっとした秘訣

筋肉が力を出すパターンには2通りあります。1つは筋肉が短くなりながら力を発揮する場合(短縮性収縮)、もう1つは筋肉が引き伸ばされながら力を発揮する場合(伸長性収縮)です。これには両方を効率よく動かす腕の運動で「アームカール」というレジスタンストレーニングがあります。ダンベルを持ち上げるときは筋肉が短くなりながら力を発揮する短縮性収縮、持ち上げてダンベルを下ろすときは筋肉が引き伸ばされなが力を発揮する伸長性収縮を高めます。この”伸び”と”縮み”をほかの運動時にも意識することがレジスタンストレーニングの効果を上げる秘訣となります。

最後に

10月20日の日本経済新聞の社説に、衆議院選挙の争点として「高齢化に耐える社会保障改革案を示せ」との社説が掲載されています。政治的な話を無しにし、この社説の要点を整理すると

①日本の高齢化はこれからが本番で、75歳以上の後期高齢者は2025年までには約2180万人まで増え、総人口に占める割合は18%に上ること。

②高齢化に伴い、年金・医療・介護など社会保障の給付費用は介護保険が施行された2000年度は78.4兆円だったが、2025年度までには140兆円程度まで膨らむ見通しであること。

③生産年齢人口は減少し、高齢者の医療・介護を支える現役一人あたりの負担が増加すること。

未曾有の高齢社会の到来に対し何らかの手を打つ必要性があり、そのロードマップを示さなければならない…ということに要約されます。これに関連して、新聞には「働きたいシニア 積極活用」との見出しでシニアの雇用拡充に取り組む企業の事例が紹介されています。家電量販店大手のノジマが、80歳が上限だった雇用制限を事実上撤廃。YKKグループも正社員の定年を廃止したことなどが紹介されています。

生産人口年齢層の減少に伴う人手不足の状況において、豊富な知識を持つシニアは貴重な戦力であり積極的に活用していく必要性があることや、今年4月に改正高齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会確保を努力義務としたことへの対応の一つとも捉えることができます。

これらのことから何が見えてくるかと言うと

高齢化が本格化してシニアの方が増えても、生活の質を維持し人間としての尊厳を守る観点、社会保障費の給付費用の観点、減少する労働力の観点から「自分の健康は自分で守り、健康寿命を延伸することの重要性が今後ますますクローズアップされてくる」ということではないかと思います。筆者は、日本国民が毎日スクワットを30回行えば、社会給付費の相当額の削減につながるのではないか、と真剣に考えたりします。「健康づくり」は自分ごとと捉え、シニア前から毎日コツコツと積み重ねることが重要だとあらためて思います。ぜひ「シニア前から始めるレジスタンストレーニング」を参考に適切な運動を試みてはいかがでしょうか。


 

今回の執筆者は…

レッツリハ白山駅前
健康運動指導士 
越智直彦